カーク船長の娯楽日記

周回軌道上から地球を眺めつつしたためた恒星日誌
ホームページへ     
TOP ≫ ARCHIVE ≫ 2017年03月
ARCHIVE ≫ 2017年03月
      
≪ 前月 |  2017年03月  | 翌月 ≫

スティグリッツの有意義な提言

「現代経済学は、よくいって驚くべき無能をさらし、悪くいえば事実上の加害者でありつづけた」
                 ポール・クルーグマン(アメリカの経済学者)

170317krugman.jpg




3月14日、スティグリッツと言うアメリカの(まともな)経済学者が来日して、経済財政諮問会議でかなり有意義な提言をしてくれたのにもかかわらず、マスコミは完全に無視しています。政治問題ですら、あいかわらずワイドショー的な価値を優先する報道ばかりで辟易としますね。

スティグリッツ、クルーグマン、ピケティ、シムズ・・・みんな日本に来た時にマスコミで少しだけ取り上げられますが、消費増税はやめたほうが良いと言ったとたんに、マスコミからは完全に無視されています。

最近、主流派経済学の間違いがどんどん証明されてきて、さすがにまともな人が出てきました。そして、主流派の中からもシムズ氏のような人もでてきたわけですが、日本のマスコミは財務省の広報機関のようになってしまっている、もしくはいままでの間違いがバレるのが怖いのか、増税するのに都合悪い真実は隠したいのでしょうかね。

日本政府が財政破綻などするはずがないのは、多少のこと(債務のほとんどが円建てでありるため日銀が買い取れば債務不履行も長期金利の高騰もあり得ない)を知っていれば、わかりきった事実なのですが、財務省が増税したいために危機をあおりまくり、御用学者が財務省に都合の良い理屈をこねくりまわし、マスコミは経済オンチのために財務省記者クラブで発表されている資料を垂れ流すだけで、その結果として一般国民が不安に思っているわけです。

そうやってあおられた国民の不安感を払拭するための有益な手段が、私の尊敬するスティグリッツ氏によって提言されました。彼はノーベル経済学賞を受賞している経済学者であり、主流派経済学ではないし(だから良い)、人格的にも立派な人なので信頼できます。

個人的にはより主流派の理論に近いシムズ氏よりもずっとスティグリッツ氏のほうを信頼しております。(シムズ理論の記事はこちら)。まあ、シムズ理論もスティグリッツ氏の言ってることも、やることは似たようなものですが。緊縮財政をやめて、国債発行を財源にして財政出動をデフレ脱却までやれば良い、です。

スティグリッツ氏の有益な提言は以下の通りですが、日本語訳がおかしいので注意が必要です。以下の記事で「国債を無効化」と書いてあるのは不正確で、英語ではキャンセルですが、「相殺」と訳す方が正しいようです。


スティグリッツ教授:政府・日銀保有国債の無効化主張-諮問会議

170317stiglitz.jpg

→政府債務が「瞬時に減少」、「不安和らぐ」と-スティグリッツ氏
→債務の永久債や長期債への組み換えも提言-金利上昇リスク移転可能

ノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ米コロンビア大学教授は14日夕、経済財政諮問会議に出席し、政府・日銀が保有する国債を無効にすることを提言した。

  会議に提出された資料によると、スティグリッツ教授は、政府・日銀が保有する国債を無効化することで、政府の債務は「瞬時に減少」し、「不安はいくらか和らぐ」と主張。また、債務を永久債や長期債に組み換えることで、「政府が直面する金利上昇リスクを移転」できるとしている。永久債の発行は「政府支出に必要な追加的歳入を調達し、経済を刺激する低コストの方法」だとした。

  日本の政府債務については、金利の大幅な上昇で「政府は問題に直面するかもしれない」と懸念を表明。しかし「政府債務を低下させるために消費税を上げることは逆効果」であり、代替案として企業の設備投資を促す炭素税の導入を挙げた。

  スティグリッツ氏は記者団に対し、金融政策では強い経済を取り戻すのに必要な刺激を与えるのは難しい、と説明。財政政策によって、さまざまな分野の構造改革を進めるべきだと述べた。

  スティグリッツ氏は昨年3月、政府が開いた国際金融経済分析会合の初会合に出席し、17年4月に予定していた消費増税について、世界経済が低迷する中での実施は間違っているとして安倍晋三首相に再考を促した。安倍首相は6月、消費増税の再延期を正式に表明した。


なんども書いてますが、日銀は政府の子会社なので、日銀保有の国債については、その気になれば償還も利払いも不要です。償還するにしても、新しく国債を発行して「乗り換え」するだけでも何もかわりません。その時にスティグリッツの言うように、「永久債(つまり償還期限なしの国債=いつまでも返さなくて良い)に乗り換えればわかりやすいと言うだけの話だと思います。まあ、たぶん国会で法案を通さないとできないでしょうから、かなりめんどくさそうですが・・・

いずれにしろ、国債を日銀がずっと保有し続ければ国家財政をまったく圧迫しませんし、インフレになれば勝手に目減りしますし、景気が回復すれば税収が増えますから、その時に余裕があれば新規国債の発行が不要になるので、自動的に政府の負債は減って行きます(対GDP比で減れば良い)。

すでに日銀の金融緩和で、国の借金1000兆円と言われているもののうちの400兆円以上を日銀が保有しています。これは国の借金にカウントする必用がないものですし、上に書いた通り、利払いも不要です。利払いしても子会社なので連結決算ですからチャラと言うか、どっちみち国庫に納付されて戻ってくるだけです。

これで、一体どうやって財政破綻するのでしょうか!?どうやったら金利が高騰するのでしょう!?どうやったら国債が暴落するのでしょうか!?

スティグリッツ氏の言っているようなことと似た方法で他に聞いたことがあるやり方としては、「無利子永久国債」を政府が発行して、日銀が保有している通常の国債を順次それと入れ替えて行くと」、または、「日銀と政府が協定を結んで、一定額の国債を一定期間償還しないことにする」のでも同じようなものだと思います。やり方はいろいろあります。国会で法案を通さずできるやりかたが早くて楽で良いと思います。アホがわーわー騒ぎますので。

このスティグリッツ氏が経済財政諮問会議で発表した資料(PDFファイル)「持続可能で共有された. 繁栄への移行. ジョセフ・E・スティグリッツ. 東京. 2017年3月14 日. 仮訳.」のダウンロードはこちら

ところどころ日本語訳が変ですが、有益なことがたくさん書かれています。多くの人に是非とも読んで頂きたいです。

ちなみみ、スティグリッツも「構造改革」が必用と言ってますが、その内容は一般に言われている改革とは違います。彼は一般に言われている「改革」と言うものを、以下のように評価しているくらいですので。

「グローバリゼーション」、「改革」、「技術進歩」は、約束したことを実現していない。
→過去四半世紀の変化・改革は厚生の低下をもたらした可能性がある。


と言っています。

ではどうすれば?彼は、製造業を回復しようとしても無理なので(世界的に製造業の需要も減っている)、むしろサービス業を中心にした経済にしたほうが良いと指摘しています。

経済がサービス産業を中心とした経済に発展していく。特に、教育・健康医療・他の公的サービス。
・これらのサービスの価値は、市場プロセス「のみ」ではなく、主として社会的に決定される。
・もしこれらのサービスの価値を高く評価し、よい賃金を支払い、良好な労働環境を提供し、十分な雇用を創出すれば、市場における所得格差の拡大を限定することができる。
・高賃金により、これらの職業に対する高い「敬意(リスペクト)」も生まれる。
・民間セクターの賃金も公的セクターの賃金に続く。


最後の項目も重要だと思います。一般に、景気が悪いと安定している公務員叩きが流行しますが、公務員の賃金を減らせば民間もさらに下がりますし、公務員を減らせば若者の雇用が減ってしまいブラック企業に流れる犠牲者が増えることにしかなりません。ただの足の引っ張り合いです。まあ、そういうルサンチマンに満ちた国民ばかりの国は滅びると言うことで自業自得かもしれませんが。

あとは、格差の拡大は経済効率拡大や経済成長にとってマイナスであることを指摘した上で、市場ルールをより平等性の高いものに改革する必用性に言及してますし、仮に増税するならば累進制の高い税制がより良いとも言ってます。さらに、企業の設備投資を促進する点から「炭素税の導入」も提唱しており、興味深いです。少なくとも内部留保に課税するよりは儲かっている企業には炭素税を課税するのが良さそうです。なお、消費税増税は今の日本では逆効果とも言ってます。そもそも、社会保障の財源に消費税と言うのは愚かすぎます。

ちなみに、こちらに、スティグリッツが「人口が減っても経済成長は可能である」ことに関していくつも語っています。彼は知っていると思うのですが、人口とGDPの規模、人口増加率と経済成長率には相関はありません。人口が減るから経済成長できないとか、成熟したから経済成長できないと言うのは、経済成長と言う言葉の意味がわかっていない人の言うことです。

日本人にやたらと「日本はもう経済成長できない」と思いたい人が多い現象は、心理学における「認知的不協和」の解消で説明可能です。

「認知的不協和」とは、人が自身の中で矛盾する認知を同時に抱えた状態、またそのときに覚える不快感を表す社会心理学用語です。フェスティンガーと言う心理学者が唱えた仮説ではありますが、人は、相矛盾する認知をかかえた時には、そのストレスに耐えられずに、いずれか一方の認知を変えることによって不協和を除去しようとする・・・と言うものです。有名な例は以下の通り

喫煙者が喫煙の肺ガンの危険性(認知2)を知る
(認知1)私、喫煙者Aは煙草を吸う
(認知2)煙草を吸うと肺ガンになりやすい

この場合、(認知1)と(認知2)の不協和の解消のため、いずれかの認知を変更または追加補正します。

【解消パターン1】 (認知1)の変更
(認知1)→(認知3) 私、喫煙者Aは禁煙する

【解消パターン2】 (認知2)に追加補正
(認知2)+(認知4)喫煙者で長寿の人もいる
     +(認知5)交通事故で死亡する確率の方が高い

他の有名な例としては、「①酸っぱい葡萄」バージョンや、「②甘いレモン」バージョンがあります。

①=Aが手に入らないからAには価値が無い
(例)ダイエットできない→むしろ食べたいもの食べて早死にしたほうが幸せ

②=Aしか手に入らないからAには価値がある
(例)彼女がブス→友達の彼女よりはかわいい

経済成長できない→そもそも経済成長はもう不可能

若者「金がなくてモノが買えない」→「これと言って欲しいモノがない」
  「彼女ができない」→「そもそも欲しく無い(草食化)」

従って、自分たち自身の認知的不協和の解消のために、経済成長は理論上不可能ということでないと不協和が解消せずにストレスになるわけであり、若者がモノを買わなかったり草食系であったりするのは、そもそも欲しく無いからであると考えないとこれまた不協和が解消せずに辛いから・・・と解釈することも可能でしょう。

「自己欺瞞」と言う言葉もある通り、自分が思っていることそのものも本当なのかどうなのか、心理学的な反応の結果かもしれない・・・くらいのことは考えてみても良いのではないでしょうか!?


最後に、経済学者による経済に関する言有名な言葉を並べておきます。

ジョーン・ロビンソン(イギリスの経済学者)
170317robinson.jpg

「経済学をまなぶのは、経済学者に騙されないためである。」
(正確には→経済学を学ぶ目的は、経済問題に対する出来合いの対処法を得るため、ではなく、そのようなものを受け売りして、経済を語る者に騙されないようにするためである。)

ついでにもうひとつ
「どんな愚か者でも質問には答えられる。重要なのは質問を発することだ。」

これは良いことを言ってますねー。簡単に答を出す奴ほど、よく考えていない奴です。


ジョン・メイナード・ケインズ(イギリスの経済学者)
170317keynes.jpg

「経済学者や政治理論家の思想は、正しい場合にも間違っている場合にも、一般に考えているより、はるかに強力である。世界を支配しているのは、思想以外にないと言えるほどである。

自分は現実的であって、どのような思想からも影響を受けていないと信じているものも、いまは亡き経済学者の奴隷であるのが普通だ。権力の座にあり、天の声を聴くと称する狂人も、それ以前に書かれた学者の悪文から、錯乱した思想を導き出している。」


最後に引用したケインズの言葉にはものすごく納得いたします。




↓国家財政や財政破綻、財政赤字などについてきっちり考えたい方は、このまとめサイトが参考になると思います。
財政再建を問う-財政赤字よりも大切なこと

ちなみに、国家財政に関する話は、マクロ経済になります。マクロ経済をいくら勉強しても、会社経営やビジネスにはほとんど役に立ちません。逆に、ビジネス書をいくら読んでもマクロ経済はまったく理解できません。全然別のものですので。

したがって、ミクロ経済についてしか理解していない企業経営者などに国家財政の話を聞いても、自身の会社経営や家計レベルの発想で考えてしまうために、間違った結論が出てしまいます。企業経営や家計において合理的な経済行動を、国家の財政運営に同じようにあてはめることはできませんので。

そこが、国家財政について考える場合に難しい問題です。役に立たないマクロ経済をほとんどの人が理解していないし、理解することにメリットもないので勉強することにインセンティブが働きません。でも、マクロ経済について一般の理解が低いことが、ある意味で日本を長期的な停滞からぬけだせなくしている一因かもしれません。せめて、政治家やマスコミ、評論家にはある程度マクロ経済を理解して欲しいものです。