カーク船長の娯楽日記

周回軌道上から地球を眺めつつしたためた恒星日誌
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言葉の意味の勘違い

誤解されているよなあ、と思う言葉は「国の借金」の他にも結構ありまして、「経済成長」と言う言葉もそうでしょう。

一般の人は知らなくてもしょうがないですが、新聞や雑誌などで経済について知識人・文化人が経済・社会を語るときに、経済成長を完全に誤解または意味を知らないとしか思えないような言説をよく目にします。

中日新聞の記事「この国のかたち 3人の論者に聞く」から引用です。

◆緩やかな連帯を築け ラッパー ダースレイダーさん

 政権は「成長戦略」を掲げています。でも、今の日本はどう頑張っても、少子化は決定し、人口減は避けられず、高齢者は増えていく。成長ではなく「成熟」が求められていると思います。それが社会を豊かにする。



日本の将来をどうするか、ラッパーに聞いてもしょうがない気がしますが、安倍政権の「成長戦略」とは、経済成長するための戦略と言う意味です。

成長より成熟と言っている時点で、まるで理解していないのがすぐわかります。「社会の成熟度」と「経済成長率」は関係ありません。未成熟、発展途上な社会だから経済成長すると言うわけでもありません。

経済成長とはGDPが増えることです。一般にはインフレ率を補正した実質成長のことですが、名目成長を意味する場合もあります。国家経済と言うか、マクロ経済について語る場合に、「GDP」を理解していないと話になりません。

GDP(国内総生産)とは、日本国内で1年間に得られた所得の合計のことです。またそれは1年間に使われたお金の合計でもあります。ストックとフローで言えばフローのことです。

かなり単純化して言えば(ちょっと不正確ですが)、GDPとは

国内で1年間に生み出された商品やサービス(労働も含む)などの付加価値
=国内で1年間に使われたお金
=国内で1年間に得られた所得

と言う意味です。だからみんながお金を使いさえすればGDPはふえます。社会が成熟すると確かに生活して行く上でどうしても必用となるサービスや商品などが満たされてきてそれほどふえませんから、高度成長はもちろん無理ですが、それ以外の商品やサービスについては、みんながそれを買えば経済成長は可能です。教育・福祉・医療・安全・文化面などにはまだまだ需要があるはずです。

ちなみに、日本はこの20年間ほぼ経済成長していません。これは名目成長率がほぼゼロと言う意味ですが、その理由はデフレだからです。実質成長はちょぼちょぼとしていても、インフレ率がマイナス1%程度だったりしたために、名目GDPはずっと500兆円程度で成長なしでした。

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デフレだと物価が下がる=お金の価値が上がるので、拝金主義になってお金を大事にするからお金を持っているのに使わなくなり経済成長しません。金持ちは金融部門(ストック)に金を移動させるので、格差拡大と金融経済の肥大も経済成長を阻害します。

さらに、デフレと消費増税で可処分所得が低迷しているので、みんなが節約志向になっていることも経済成長の阻害要因です。日本の場合は需要が減っていることが経済成長できない原因なのです。

20年間も経済成長していない国と言うのは、かなり稀です。日本の他には、何と、「アフリカ地域」だけです。他の国は、途上国の先進国もみんなどこも普通に経済成長しています。高成長の国はたしかに少ないですが、まったく成長していない国のほうがはるかに珍しいのです。

これでおわかりかと思いますが、経済成長に関するもうひとつの大きな誤解、「人口が増えないから経済成長しない」と言うのも間違いです。

人口増加率と経済成長率には何の相関もありません。アフリカ地域では人口が2倍に増えても経済成長していません。

アジアが経済成長しているのは、日本が経済成長していないおかげと言うと変ですが、グローバル化で日本企業がアジア進出して国内が空洞化したせいも多いです。アジアの成長は、人口増加のおかげではなく、グローバル化によって資本が先進国から発展途上国へ流れたおかげです。

日本の経済的な停滞、GDPが成長しなくなったのは、人口が減る以前からはじまっています。デフレになってからです。消費税を5%に上げてからと同時に成長が停止したのです。バブル崩壊からではありません。

ちなみに日本の高度成長期の人口増加率はたかだか1%程度でしたが、経済成長率(実質)は10%近かったわけです。

まあ、マクロな話に個別の例を出してもあまり意味はないのですが、参考までに他の例をいくつか見てみますと・・・

ごく最近のデータは知りませんが、ちょっと前までドイツは移民を入れても人口減少だったらしいですが、普通にずっと経済成長しています。

最近は調子が悪い中国ですが、ちょっと前までは高度成長していました。一人っ子政策で人口増加を抑止していたのにです。逆に、毛沢東時代の中国のほうがはるかに人口増加率が高かったですが、ほとんど経済成長はしていませんでした。

中国が経済成長している(いた)のは、グローバル化のおかげです。そのぶん先進国は雇用や産業を奪われているのです。ユニクロ製品を安く買えるかわりに若者は派遣ばかりになっているわけです。

「総人口の増加」による「需要の増加」は経済成長にほとんど影響しないのです。

なので、移民を入れても経済成長するとは限りません。大半が失業者になるだけなら経済成長などするはずがありません。

ここまでの結論

「社会の成熟度」や「人口減少」などは経済成長する・しないとは無関係。日本において経済成長の最大の阻害要因となっているのは政府の緊縮財政です。それは、国の借金がヤバイという国民全体の勘違いのせいでもありますが。

他には格差の拡大やグローバル化(資本移動と人の移動の自由)も先進国での経済成長の阻害要因になっています。グローバル企業は所得を増やしますが、国内の労働者の所得が減りますので。

経済成長率と人口増加率には相関がないことの根拠の一つが以下の世界167ヶ国のデータです。

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経済成長率(実質)と人口増加率の相関係数 R=0.17、これはつまり「ほぼ相関なし」です。


さて、最初に引用した中日新聞のコラムについて、ラッパーよりもっとひどいのがこのコラムですが、もう説明不要でしょう。


◆平等に貧しくなろう 社会学者・東京大名誉教授 上野千鶴子さん

 日本は今、転機だと思います。最大の要因は人口構造の変化です。安倍(晋三)さんは人口一億人規模の維持、希望出生率一・八の実現を言いますが、社会学的にみるとあらゆるエビデンス(証拠)がそれは不可能と告げています。

 人口を維持する方法は二つあります。一つは自然増で、もう一つは社会増。自然増はもう見込めません。泣いてもわめいても子どもは増えません。人口を維持するには社会増しかない、つまり移民の受け入れです。

 日本はこの先どうするのか。移民を入れて活力ある社会をつくる一方、社会的不公正と抑圧と治安悪化に苦しむ国にするのか、難民を含めて外国人に門戸を閉ざし、このままゆっくり衰退していくのか。どちらかを選ぶ分岐点に立たされています。
 移民政策について言うと、私は客観的に無理、主観的にはやめた方がいいと思っています。

客観的には、日本は労働開国にかじを切ろうとしたさなかに世界的な排外主義の波にぶつかってしまった。大量の移民の受け入れなど不可能です。

 主観的な観測としては、移民は日本にとってツケが大き過ぎる。トランプ米大統領は「アメリカ・ファースト」と言いましたが、日本は「ニッポン・オンリー」の国。単一民族神話が信じられてきた。日本人は多文化共生に耐えられないでしょう。

 だとしたら、日本は人口減少と衰退を引き受けるべきです。平和に衰退していく社会のモデルになればいい。一億人維持とか、国内総生産(GDP)六百兆円とかの妄想は捨てて、現実に向き合う。ただ、上り坂より下り坂は難しい。どう犠牲者を出さずに軟着陸するか。日本の場合、みんな平等に、緩やかに貧しくなっていけばいい。国民負担率を増やし、再分配機能を強化する。つまり社会民主主義的な方向です。ところが、日本には本当の社会民主政党がない。

 日本の希望はNPOなどの「協」セクターにあると思っています。NPOはさまざまな分野で問題解決の事業モデルをつくってきました。私は「制度を動かすのは人」が持論ですが、人材が育ってきています。

 「国のかたち」を問う憲法改正論議についても、私はあまり心配していない。国会前のデモを通じて立憲主義の理解が広がりました。日本の市民社会はそれだけの厚みを持ってきています。
 (聞き手・大森雅弥)



前半の、日本社会の維持に移民を入れることが不要なのは正しいですが、その理由も間違っています。

今は確かに人手不足になりかけてきていますが、まず、景気が上向いてきた時には人手不足になるのがむしろ当たり前です。長いこと人が余っていたこれまでが異常だっただけのです。ようやくあたりまえになりかけてきているのに、そこに移民を入れては国民がまた貧しくなる方向へ逆戻りです。

企業の労働力不足は、もうすでにはじまっているAIやドローン技術などの技術革新でおぎなうべきです。今後はほとんどの仕事が自動化・機械化されて、人は不要になって行きます。少子化はラッキーなのです。これから、労働力がいらない世の中になってくるのに人口が増えてしまっては、将来の若い世代は失業者だらけになってしまいます。

日本の若い世代も派遣ばかりで気の毒と思いますが、ヨーロッパの多くの国では若者の失業率がものすごい高いです。それほど高く無いのは、他国から搾取しまくっているドイツくらいのものです。

数年前のデータですが、25歳以下の若年層の失業率では日本が約6%に対して、ユーロ圏内では24%、圏内で最も高い数値を記録したのはスペイン(53.8%)で、次いでギリシャ(53.1%/*2014年5月時点)、イタリア(42.9%)、クロアチア(41.5%/*2014年第2四半期時点)。最も低い数値を記録したのはドイツ(7.8%)で、次いでオーストリア(9.3%)、オランダ(10.4%)となっている。”

ヨーロッパでの若年層失業率が高い理由はいろいろありますが、日本と共通しているのは、比較的雇用にたいしての規制があるおかげで、企業は簡単に社員を首にできないので、ある程度上の世代の雇用は守られているものの、そのぶん景気が悪いと新規採用をしなくなるので、ツケが若者に向かってしまうとのことです。

ここで新自由主義者ならば世代間対立をあおって解雇規制を緩和しろと言うでしょうが、それをやれば、若者の失業率は多少下がるかもしれませんが、そのぶん上の世代がどっと失業するわけですから、根本的な解決にはなりません。かえって悪くなるかもしれません。親が失業するのと、子供が就職できないのと、どっちが家計に与えるインパクトが大きいか考えればわかると思いますが、世代間対立をあおられてルサンチマンを駆り立てられると、それがわからなくなるから怖いですね。

若年層の失業率が高いことにたいして、解雇規制の緩和は何の解決策にもならない若者への人気取りルサンチマン政治なのです。

ヨーロッパで若者の失業率が高いのは、同じく安い労働力としてライバル関係にある移民の流入によるところも大きいのです。なので、移民流入の制限は一つの解決策になると思います。

もうひとつの解決策は、政府の経済政策(金融緩和+財政出動)による景気回復だと思いますが、ユーロは共通通貨ですから各国独自の金融政策ができませんし、財政出動もユーロを牛耳っているドイツやブリュッセルの官僚たちが許さないからできません。

EUは共通通貨と人の移動の自由、単一市場など、ある種のグローバルな理念を実現している共同体ですが、そのせいで国民が貧しくなっているわけです。少なくとも貿易の自由度で言えば、ユーロ内は最高ですが、逆に貧困化がすすんでいるのですから、自由貿易が何の解決にもならないのは明らかです。

安倍首相の成長戦略(規制緩和と自由貿易拡大による輸出依存)が間違っているのはその通りでも、左派が言う「経済成長しなくてよい」は大間違い、はっきり言って方向性じたいが間違っているので救いようがありません

安倍首相の経済成長を目指すと言う方向性は間違っていません。経済成長、つまりGDPの拡大以外に国の財政の問題を解決する方法はありません。税収の財源はGDPなのですから。

経済成長しなくて良い、GDPなど減ったって良いと言う方は、国民の所得が減って良いと言っているわけですから、それならばまず自分の財産をすべて国庫に納付してみてはどうでしょうか!?そこまでするなら話を聞いてあげても良いです。

しかも、これを言っている上野氏は団塊の世代なんですよねー。自分たちはさんざん豊かな社会で豊かさの恩恵にあずかって生きてきながら、これからの世代には貧しい世の中を引き渡そうとしていて、それで良いと思っている、高齢者エゴです。

上の世代は次の世代になるべく豊かな社会を受け渡す責任があると思うのですが。

だから私は財政出動を主張しています。国の借金は将来世代へのツケではなく、逆に今の段階で何もしないこと、緊縮財政によって日本社会を貧困化させることこそ次の世代にツケをまわすことになります。

将来世代が生きて行く上で必用なインフラを整備し、現役世代に所得の増加して行く正常な世の中(=経済成長)を残し引き渡して行くためのデフレ脱却であり経済成長なわけです。経済成長すれば「国の借金」は自動的に減って行きます。そのためには金融緩和と財政出動をしてデフレ脱却は正しい政策です。それがちゃんとされていないことが問題なのです。

これもすべて経済成長と言う言葉への誤解があるせいかなあと思います。